次世代トランスポートプロトコルの評価・開発・実装

無線通信の普及により,スマートフォンやモバイル端末を利用するとき,3GやLTE回線とWiFi回線を切り替えて使用することが一般的になりました.これらを切り替えずに同時に使うことができたらいいのに...という考え方から生まれたのが,Multi-Path TCP(MPTCP)です.

MPTCPは次世代のトランスポートプロトコルの1つとして開発されているものです.これは複数の回線を同時に使って1つのwebサービスを見ることができるという画期的なもので,最近世界中で活発に研究されています.webサービスとして私たちが普段利用しているサービスはHTTP/TCP/IP上のもので,このTCPの部分をごっそり入れ替えてしまうという計画です.

もちろん今まで使われてきたものを変えようとすると問題もあります.不具合が出る環境はどこか?通信速度は上がるのか?ユーザが使ったときの動作はどうなるのか?など尽きることはありません.

私たちの研究ではMPTCPがユーザの体感品質に与える影響について焦点を当てています.どんな要因がユーザ体感品質に影響を与えるのか,どのような改善をすればいいのかということを研究の目的としています.

IPv6

Webサービスを利用する機会が多くなり、現在ではインターネットは社会にとって欠かせないものとなっています。

ところで、インターネットはIP(Internet Protocol)と呼ばれる通信規約に則ることで実現されています。IPはインターネットに接続している機器に重複しない識別子(IPアドレス)を付加することで、インターネット上の任意の端末間での接続性を提供するという役割を担っており、インターネットを使った通信を行う上で必要不可欠なものです。

しかしながら、IPは重大な問題に直面しています。IPの現在のバージョンであるIPv4(IP version 4)のIPアドレスは32ビットの長さをもつため、原理的には2の32乗個(約43億個)のIPアドレスを利用することができます。しかし、インターネット人口の増加やスマートフォンの流行などによってインターネットに接続できる機器の数が増加していった結果、約43億個というアドレスが十分ではなくなってきました。最終的にIPアドレスが完全に使い切られてしまうと、それ以後の機器がインターネットに参加できなくなってしまうため、インターネットの成長の妨げになってしまいます。それを防ぐため、1つのIPアドレスを複数の機器で共有して使い回す、不要となったIPアドレスを企業などから回収するといった策が講じられてきましたが、いずれも根本的な解決とはなりませんでした。

そこで開発されたのがIPv4の次バージョンであるIPv6(IP version 6)です。IPv6ではアドレスの長さを128ビットとすることで、利用できるIPアドレスの数を爆発的に増加させました。そのため、IPv6の導入によってIPアドレスの不足という問題は解決できると考えられています。

しかしながら、IPv6の導入には大きな障害があり、IPv6の標準化から十数年経過した現在でも広く普及するには至っていません。その導入の障害というのはIPv6がIPv4との互換性をもたないことです。つまり、IPv4とIPv6の規格は全くの別物であり、IPv4専用の機器ではIPv6インターネットに接続できないため、機器の切り替えコストが掛かります。そのため、切り替えにはある程度の時間がかかるため、完全にIPv6に移行まではIPv4とIPv6を両方使えるようにする共存技術が必要になります。共存技術としては既に多くのものが標準化されており、実際に運用されているものもあります。

本研究では、これらの共存技術を使ってWebサービスを利用するときに通信品質(QoS)の劣化は起こるのか、Webサービス利用者の体感品質(WebQoE)に影響はあるのかといったことを評価し、Web用途における共存技術の問題点や改善点を調査します。